杯に満ちる毒

 白薇が告げると、枕もとに腰かける兄は白薇を見おろしてきた。その眼は訝しげに細められている。
「……なにかの遊びか?」
「はい、そう受け取ってくださって構いません」
 白薇は笑みを崩さずに頷く。兄の手は変わらずに白薇の髪を梳いており、白薇はうっとりと身を委ねて横たわっていた。ふん、と兄がつまらなそうに鼻を鳴らした拍子に、組んだ片足の先が揺れるのが見えた。
「下手な誘い文句だな」
「そうかしら。文立様はしてくださいましたけれど」
 ぴたり、と兄の手が止まった。それは瞬きをするよりも短い間のことであり、たとえば白薇以外の女なら気づかなかったかもしれない。そのあと、兄の指にこめられる力がほんの少し強まったこともだ。
 兄は先までと変わらぬふうで、じっと上から白薇を見ている。白薇も兄の眼を見つめ返した。兄の手が髪から離れ、その手の甲が白薇の頬を撫で、そして手のひらが寝台につかれた。白薇の頭の下で寝台がかすかに軋む音を立てる。
「いいだろう。たまには、おまえの遊びに付き合ってやるとする」
「まあ、ありがとうございます」
「そのかわり、俺の遊びにも付き合えよ、白薇
 兄は冷たく笑い、もう一方の手で、白薇の首筋を包むように触れた。ついいましがた隣室の男を殺してきたのだということを白薇に思い起こさせるように、その手もまた冷たく冴えきっていた。
 白薇は思わずふるえる。
 はい、と答えたつもりだが、それがきちんと音になったかはわからない。部屋の隅で静かに揺れる灯が、覆いかぶさる兄の影を白薇の上に作っても、白薇は決して瞼を閉じなかった。なんの心も読ませぬ兄のまなざし、その奥に渦巻いているはずの、白薇のためのすべてを、なにひとつこぼさず掬いあげるために。
「兄様のお好きなように……」
 ああ。兄様。
 いとしさに息絶えてしまいそうになりながら、白薇は兄の指に己の指を絡めて陶然と思う。はやく、はやく私のもとまでいらして。その時を、白薇はいつまでも待っておりますわ。






【小ネタ】青蓮寺のみなさん
=文立の場合=
「……これでいいのか?」
「あら」
「俺は帰るぞ。あまりくだらぬ用に付き合わせるな」
「まあ、ひどい。ですけど、おやさしいこと」
「……ぬけぬけと」
「本心ですわ。ね、文立様。帰るなどとおっしゃらないで」
「まだ、なにかあるのか」
「わかっていらっしゃるくせに。それとも、女の口から言わせるのがお好きかしら?」
「…………」
 ⇒食っちゃう。

=聞煥章の場合=
「つまらんことを言うな」
「申し訳ございません、旦那様。端女の戯言とお聞き流しくださいませ」
「よい。……そうだな、口を吸うくらいしてやらぬでもない。せいぜい私をその気にさせてみろ」
「はい、旦那様。ありがとうございます」
 ⇒食っちゃう。

どちらの場合も兄様はもちろん天井裏にいます。