「ちょっと待ってください」
 触れそうになる寸前で、史香は二人の間にさっと己の手を差し入れた。
「…………何ですか」
 お預けをくらった竜崎は、口を塞ぐ史香の手を外し、目を据わらせてこちらを見てくる。しかし、大変なことに気付いてしまった今では、竜崎の不機嫌具合などを気にしていられない。
「このビルには死角がないように監視カメラがついていると、小耳に挟んだことがあるのですが?」
「ああ……」
 あるのか。あるんだ。この部屋にも。竜崎の反応から、それを悟る。
「撮っているんですね? つまり今まさにカメラが回っているんですね?」
「と言っても、何か起きない限りカメラの映像が誰かに見られることはありませんし……私は別に構いませんよ」
「私が構うんです。それと、そんなさらっと変態趣味をカミングアウトされても困りますから」
「変……」
 ちょっとの間、竜崎は黙り込んだ。それから、
「仕方ないですね」
 と零して、史香を肩に担ぐように抱え直し、自由になった片腕をパソコンに伸ばした。キーを操作すると画面にWの文字が現れて、史香はぎょっとする。
「ワタリ、今から私の部屋の監視カメラを切」
「!!」
 史香は生まれて初めてきゃー!だのいやー!だのみたいな黄色い声を張り上げる羽目になった。胸元くらいの位置にある竜崎の頭をぺんぺん叩く。
「ちょ、や、やめてくださいって! 何ですか、その、あからさまに『今から人に見せられないことをします』的な発言は! しかもワタリさんに!」
史香、暴れないでください。落ちますよ」
「うっ……」
 史香がたじたじとなったところで、パソコンから声が聞こえてきた。
『――史香さん』
「は、はいっ?」
 この格好でワタリと言葉を交わすのは、彼の方からはこの姿は見えない(たぶん)とは言え、とてつもなく恥ずかしいものがある。
『私は何も聞きませんでしたから、安心してください。……お二人とも、おめでとうございます』
 何! おめでとうございますって、何!
 史香が返事をする前に、プツンと向こうから通信が切れた。パソコンの画面が真っ暗になる。
 次から、どんな顔をしてワタリに会えばいいのやら……悶えているとまた抱え直されて、元の体勢に戻った。竜崎が、おそろしく静かな口調で言う。
「……だ、そうですが」
「はい……」
「他に気になることは」
「今のところ、ありません……」
「続きをしても?」
「…………ど、どうぞ」
 史香は観念して、もう一度瞼を閉じた。