今日の第一部隊
「皆さん、お帰りなさい。今日はゆっくり休んでくださいね。夕餉もお風呂も、支度は済んでいますから」戦場から帰還した皆を出迎え、七桜はにっこり笑顔で告げる。
七桜が刀剣男士たちを集め刀装を充実させて、戦力の向上を図るのと同様に、敵もどんどん強くなってきた。そうなると、戦の始末も慌しい。
「ぃよーしっ、祝杯だー!」
「次郎太刀さんは、あの、ほどほどに……」
陣屋に入らないうちから、次郎太刀はもう酒瓶を傾けている。
「あー……大将、すまねえ。刀装を溶かしちまった」
「そんな、気にしないでください。薬研さんがご無事なのがいちばんですよ」
ばつが悪そうにしている薬研藤四郎だ。しかし、もともと彼らを守るために作った式なのである、立派に役目を果たしたと言えるだろう。木炭にまだ余裕はあっただろうか? 七桜が頭の中でそろばんを弾いていると、石切丸の溜息が耳に届いた。
「凱旋とはいえ、これでは参拝客に示しがつかないな……」
「わ、石切丸さん、大丈夫ですか? すぐにお手入れしましょう!」
狩衣がすっかり薄汚れてしまっている石切丸は、足元も少し覚束ない。石切丸を支えた七桜の背に、さらに声がかかった。
「僕も治してもらっていいかな、七桜ちゃん」
「七桜、俺もー。おっ手入れ、おっ手入れ~」
「はい、じゃあお二人の分の資源も一緒に用意してきますね」
大和守安定と加州清光は、怪我を負ってはいるものの、様子を見る限りさほど重傷ではなさそうだ。資源を揃えている間、先に手入れ部屋へ向かってもらおう。石切丸の方は……算段をつけつつ、七桜は彼へ視線を戻す。
「石切丸さんは、お一人で行けそうですか?」
「ああ、大丈夫だ。戦いから遠のいていた神刀でも、そこまで柔じゃないつもりだよ」
「はいはーい、手入れ部屋までアタシが担いであげよっかぁ? あははっ、なーんてね!」
「はは……遠慮しておくよ」
軽口を叩いた次郎太刀は、けれどどうやら本当に手入れ部屋まで付き添ってあげるつもりのようだった。ふたり連れ立って社へと足を向ける。
「さすがに疲れたな。俺っち先に風呂をもらうよ」
「はい、どうぞー。あ、青江さんは、ご飯にしますか? お風呂にしますか?」
薬研藤四郎に応じたあと、七桜は部隊の最後尾を歩いてきたにっかり青江を振り返り、問いかけた。すると、にっかり青江はいたく綺麗な微笑を浮かべて答える。
「うん、そうだねえ。それじゃ、君にしようかな」
「どっ、……どこで覚えてきたんですかっそんな台詞!?」
七桜は思わず後ずさってしまった。
と、肩が誰かにぶつかる。加州清光だ。彼はそのまま七桜の肩を抱き、常よりもずっと低い声を発した。
「俺たちの前で主をかどわかそうなんて、いい度胸だねー」
「首落とすぞオラッ」
七桜の隣、加州清光とは反対側に立った大和守安定に至っては、声色どころか、どういうわけか喋り方まで変わっている……
にっかり青江は「若いねえ、君たち」などと涼しげに笑っているが、己の両隣で血気盛んな二人に殺気立たれている七桜にしてみたら気が気ではない。ほとほと困り果てた七桜は、本丸の良心の名を呼ぶ。
「や、薬研さーん……」
「……お前たち、大将が困ってんぞ」
溜息混じりに仲裁に入ってくれた薬研藤四郎のおかげで、何とか血を見ることなしに済んだ七桜であった。