夜の京都へと出陣するに当たり、内番表を一新しなければならなくなった。
 部隊を再編成し、任務を割り当て、手の空いた者は内番のローテーションに組み込み――と、戦況が変わるたびのことだが、これらの割り振りには頭を悩まされる。そこで、七桜は近侍のにっかり青江に意見を求めてみた。
 にっかり青江は内番表をしばらく眺めたあと、「ここ」と、革手袋に包まれたしなやかな指を伸ばした。
 近侍の欄である。にっかり青江は市中見廻り部隊に組み込まれているため、明日からは誰かと近侍を交代してもらう必要があった。
「長谷部くんに頼んではどうだい」
「――長谷部さん、ですか」
「おや、彼では君を満足させることはできないのかな?」
「第二部隊の皆さんには、しばらくお休みしてもらおうかと思ったのですが……」
 にっかり青江がいかにも意味ありげに呟いたのには触れないでおいて、七桜は眉根を寄せる。検非違使が現れてから、皆、大なり小なり負傷して帰ってくることが多くなった。練度が高く、かつばらつきのないメンバーを揃えた第二部隊とて、その例外ではない。
「最終的な判断は君に任せるよ。でも彼、大人しく休んでいられる性格じゃないだろう」
 七桜、君もそうだけれどね。にっかり青江は最後にそう付け足した。
 なるほど、七桜がどうという話は置いておくとしても、彼の言には一理ある。戦の報告を聞く限り、僧服を着込んでいるわりに好戦的なようだし……我が本丸では、好戦的な僧侶が圧倒的多数となってはいるけども。
 ――明朝、近侍のへし切り長谷部を伴って出陣の見送りに赴くと、推薦者の彼はこちらに目を留めるやいなや、にっかり笑ってみせた。
「うんうん。君色に染められるのもいいけれど、僕の色に染まった主と言うのも捨てがたいよねえ」
「ええと……なんのお話でしょう……」
 後ろに控えているへし切長谷部の視線が痛い。
 真面目な彼は、にっかり青江の冗談とは著しく相性が悪そうだ。こんなに正反対の性合で、なのに仲が良……くは、ないけれど、でも、ああアドバイスを投げるくらいには、にっかり青江はへし切長谷部のことを理解している。「彼にとっての主命というものは、まあ、僕にとっての戦みたいなものさ」などとにっかり青江が言っていたのは、いつのことだっただろう。
 へし切長谷部は、七桜や短刀たちの手前だからか口には上らせないものの、ひしひしと苛立ちのオーラを放っている――それこそ、背後を振り返らなくてもわかるくらいに。
 ちらとそちら見やり、にっかり青江は七桜にこっそり囁いた。
「……長谷部くんの、あれはあれで面白いのだけどねえ。たまには、絡まれることなく飲みたいじゃないか」
「は、はあ」
 にっかり青江の言うところは七桜には三割ほどしか理解できなかったのだが、第一部隊が出陣し保護者たちも散開したあとで、へし切長谷部に問いかけられたとき、
「にっかり青江と、何を話していたんです?」
「えっ。えっと……秘密、です」
「…………そうですか」
 なんだかしょげている彼に、長谷部さんたぶんいろいろ遊ばれていて挙句酒の肴にされていますよ――そう教えてあげたほうがいいのだろうか、と、しばらく本気で悩んだ。