私の祈り人日記

ようやく人心地ついたため、日記を再開しようと思う。

しかし、これまでの日記帳は家に置いてきたままだ。侵略者に回収されたか、島の集落ごと燃やされてしまったか……
日本語なんて誰も読めやしないだろうから、その点は安心。

とにかく、これが新しい一冊目だ。

備忘録も兼ねて、簡単に書き留めておく。

私には、前世の記憶がある。
ごく普通に過ごしていたある時、事故に遭い、気が付いたらこの世界で生きていた。

日本と比べると格段に不便ではあるが、まあ、慣れるとこの生活も楽しいものだ。
幸い私にはロトイテ(クジラ漁のこと)の才能があり、どうにかやっていけている。

近頃は、東から侵略者が攻め込んでくるなど、何かとキナ臭い。
私自身、ガスマスクをつけた集団に襲われたり変なロボットの中に閉じ込められたりといろいろあったが、相棒ともどもユバの戦士様に助けられ、このユバの都にやってきた次第。

……と、こんなところか。

今日は都を見て回った。
ユバの戦士様の他に、祈り人たちとその家族が暮らしているのだそう。
多種多様な部族が一堂に会しており、なかなかの賑わい。

祈り人とは、戦士様に精霊のご加護を授けるシャーマンのような存在らしい。
そして、戦士様が言うには、私にもその素質があるのだとか。

話を聞いて、私も戦士様のためにお祈りします、と伝えておいた。
なにしろユバの一族には助けてもらった恩がある。

相棒は変わらず具合が悪そう。
見ているだけしかできないのが辛い。

今日、大神殿に呼ばれた。
他の祈り人たちと祭壇の前で両手を組んでみると、なんと、戦士様たちの姿が視えた!
戦士様の声も聞こえるし、私からの呼びかけもあちらへ伝わる。
私にこんな特技があったとは思いもよらなかった。

侵略者の首がスパスパ落ちていくスプラッタな光景は少しおそろしい。
戦士様たちには「怪我をしないで、頑張ってください」とお祈りしておいた。
帰還した戦士様には褒めてもらえたから、効果はあったのだろう。

戦士様が海水を持ち帰ってきてくれたので、水槽の水を換えることができた。
心なしか、相棒は元気になった様子。よかった。

私のお祈りは戦士様の泳力を高めるという。
なんて微妙な能力……
と思ったが、島での戦いでは必要不可欠ということで、連日お祈りしている。

私の泳力は数値で表すと14で、今いる祈り人の中ではいちばんだと言われた。
いったい何を基準とした値なのか気になるところだ。スカウターでもあるのだろうか?
ちなみに、同じ島出身のロトイテ(マッチョ)は泳力たったの5と聞いた。
ゴ……いや、何でもない。

あの島は私の第二の故郷。
奪還の役に立てているのなら嬉しい限り。

戦士様からキノコをもらった。
動物の頭蓋骨を苗床にしているキノコを、頭蓋骨ごと。
戦士様の振る舞いはしばしばワイルドだ。

青の蛍光色というちょっと、いや、とてもヤバイ見た目だが、疲労回復の効果があるとか。
……そんなに疲れた顔をしていたかな。

先ほど勇気をもって口にしてみたら、目が冴えて眠れなくなってしまった。
これって回復というか……うん。

相棒に分けてあげるのはやめておいた。

困っていることがあれば頼ってほしい、と戦士様に言われた。
他に気がかりがあるせいで、私は祈り人としての力を発揮しきれていないのだそうだ。

心当たりは、相棒や友達のクジラたちこと。
侵略者が攻め込んできたせいで海が汚れ、クジラたちは今も苦しんでいる。
せめて相棒だけでもと一緒に連れてきているが、やはり陸の上は陸の上でよろしくない。
あの海よりはいくらかマシという程度だろう……

戦士様には、クジラたちを助けてください、とお願いした。
侵略者を倒せば、海が元どおりになり、クジラたちも元気になるはずだ。
私もできる限りのことをしたい。

最近、同僚のマッチョにやたらと絡まれる。
今日などは「絶対にお前の秘密を暴いてやるからな!」と詰め寄られた。
まさか、私が前世の記憶を持っていると勘付いているのか?

クジラが友達という超絶ぼっちの私ではあるが、異端者にまではなりたくない。
言動には気を付けよう。

大神殿の月の間では、毎夜、戦士様と祈り人が儀式をおこなっているらしい。

その名も、契りの儀式。
これをやると戦士様が増える。

……コメントは避ける。

いや、しかし、戦士様が普通の人間と同じように増えるとは限らないではないか。
もしかしたら、一緒にコウノトリの世話をしているのかもしれないし?
キャベツ畑を耕している可能性だってある。うん。そうに違いない。

今日、相棒を海に帰した。
まだ元どおりとまではいかないまでも、海はずいぶんと綺麗になった。
元気に泳ぐ相棒の姿に、不覚にも涙が出そうになってしまう。

堪えていたら、戦士様に頭を撫でられた。
……私は見た目はまだ幼い少女だが、前世の分も合わせると、中身は相応の歳である。
むしょうに恥ずかしくなり、思わず「子供扱いしないでください」と、まさに子供の言い分を口にしてしまった。
戦士様に呆れられていないといいのだが……

とにかく、私たちの海を守りたい、と決意を新たにした一日だった。
戦士様、ありがとうございます。

同郷の貝殻女が、契りの儀式を経験済みだった。
あまり人のことは言えないが、幼い容姿をしているため、犯罪の臭いしかしない。
いや、でも、キャベツ畑なわけだし……

儀式についてもっと尋ねようとしたら、他の部族の女性も会話に加わってきた。

「戦士様の体って、傷だらけなんだよね……」

一緒に畑を耕していたら、そういうのを目にする機会もあるかもしれない。
うん、何もおかしいことはないな。

「服を着ていないと、とても恥ずかしいのです~」

そうそう、力仕事だもの、きっと汗をかくだろうし、服を脱ぐこともあるだろう。
まだ。まだワンチャンある。

「戦士様が私の体を貫いて、駆け抜けていくようでした……」


みんな契りックスあるあるで盛り上がりはじめたので、私はそっとその場を離れた。

私が違和感しか覚えないのは、いまだ前世の価値観に引きずられているせいなのだろう。
……しかし、太鼓の音が聞こえるというのは、いったい何のことだろうか?

戦士様に水のウルをもらった。
もらったというか、注入されたのだが。

あれから目の前が開けたように感じる。
まるで、世界が輝いて見えるような……今なら何でもできる気分だ。
キノコと同じ色だから、効果も似ているのかな?
相棒を海に帰して、心残りが晴れたこともあるだろうけど。

ウルってすごい。

戦士様の悲願は、このユバの大地に蔓延る侵略者を打ち滅ぼすこと。
もちろん私も、侵略者から故郷の島と海を守りたい。
そのためにはもっと戦士様が……

いや、何だか、この間から変なことを考えているな。
どうにも頭がすっきりしない。
またウルをもらえないか、戦士様に頼んでみようか。

先ほど、祈り人の居住区に、大きな背丈の筋骨隆々とした戦士様がやってきた。
契りの儀式の話を聞いたばかりの私は、思わず背筋が震え上がった。

戦士様は同僚のマッチョを連れていった。
指名されたマッチョも「夢みてえだ!」と飛び上がらんばかりに喜んでいた。

……別に、いいんですけどね。

複雑な乙女心というものを味わった。

昨夜、ついに私も契りの儀式に呼ばれた。
儀式がはじまってからのことは、正直よく覚えていない。

私たちの隣で、体から鉱石を生やした女が「ワンツー、ワンツー!」とか「オーエス、オーエス!」とか拍子を取っていて、それどころではなかったからだ。

そのうちお腹から芋虫が溢れている女が引っ張っていったが、アレは何だったのだろうか。
戦士様に話しかけていたようだが……

新しい戦士様が産まれた。

今、凄まじい幸福感を噛み締めている。
これが母性というものか。
日本で生きていた頃は、まさか自分がこんな体験をしようとは考えもしなかった。

十日ほどで産まれてきてくれたので、悪阻などに苦しめられなかったのは幸いかな。
すぐに大きくなってしまって、少し寂しい気もする。

新しい戦士様は、とても綺麗な眼をしていた。朝の海のような輝き。
我が子というのは格別に可愛いものだ。

私の戦士様は生け贄にされてしまった。

生け贄の儀式は、私たちにとってはとうに廃れた風習。
しかし、ユバの一族は違う。
戦士様たちは、神に贄を捧げることで成長し、強くなっていく一族なのだ。

ユバ様の側仕えの祈り人から、そう教えてもらった。
頭では理解できても、涙が止まらない。

大神殿の前で泣いていたら、近くにいたマッチョが何か勘違いされたらしく、同じロトイテの眼帯女にボコられてた。
フォローする余裕はなかった。
マッチョよ、すまない。

マッチョが泣かせたお詫びにと果物をくれた。
別にマッチョには何もされていないのだが、ありがたく頂戴しておく。

果物は、見た目は半透明の桃のようで、瑞々しくておいしかった。
島で採れるらしい。
そして、これを食べると子供を産みやすくなるのだとか。

……それはセクハラでは?

秘密がばれた時のために、眼帯女にチクるネタとしてあたためておこう。

新しい戦士様が産まれた。

旅立ってしまった戦士様と違って、全身の肌が真っ青だった。
どこか健康に問題があるのではないかと不安だったが、もう元気に戦場を走り回っている。
生け贄に選ばれる様子もない。
本当によかった。

あの果物のおかげだろうか?
マッチョにまた食べたいとお願いしてみたが、滅多に採れないのだと言われた。
残念……

ユバの都にクラゲ女がやって来た。
水槽で運ばれているのを見かけてぎょっとしたが、よくよく見ると、同郷の海女だった。

海でクラゲに足を刺されたところ、下半身がクラゲのようになってしまったらしい。
クラゲこわい。

漁を再開した時にはよくよく気を付けよう……

クラゲ女の足が元に戻っていた。
戦士様にウルを注入してもらったら治ったらしい。
やはりウルはすごい。

今日から祈り人としてお祈りに加わるそうだ。

「私の泳力は39です!」
「なん……だと……」

私はスタメン落ちした。

急に暇になってしまったので、マッチョにこの前の果物のお礼でもしようかと思ったのだが、今日は見かけなかった。

貝殻女や服を着ていないと恥ずかしいさんも、しばらく見ていない気がする。
もしかして、スタメン落ちした祈り人は里帰りしているのかもしれない。

私も相棒に会いにいこうかな?

視線を感じると思ったら、ユバ様の祈り人がじっと私を見ていた。
まるで、器の数がゼロの戦士様でも見るかのように冷たい目。
かわいそうだけど、明日の朝には祭壇の上で神に捧げられる運命なのねって感じの……

もしやと思い、慌てて私の戦士様を探すと、すぐに見つかった。
今日も明日も明後日も討伐に出る予定だと聞いた。
生け贄にされる気配はなさそうだ。
前の戦士様のことがあって、少し過敏になっているのかもしれない。

今夜は戦士様に呼ばれている。
ついでに里帰りできないか聞いてみようかな。
しばらく都を離れるなら、この機会に、日頃の感謝も伝えておこうか。

ユバの一族はクジラたち助けてくれた。
私の戦士様も、毎日を健やかに過ごしてくれている。

ああ、戦士様……私、こんなに幸せでいいんでしょうか。

なんてね。

(日記はここで終わっている。)