8.5
「……できたっ」宿の一室、ランプの小さな明りの前で、手入れを終えた制服を広げて掲げてみる。
我ながらよくできている。椎子は上機嫌で片付けを始めた。道具屋でいろいろと買い揃えることができてよかった。間に合わせにすぎないが、それ以上のことはこの先落ち着くまで我慢するしかない。
「――繕い物でござるか、シイコ殿」
突然かけられた声に、椎子は驚いて振り返った。
「あっ……カイエンさん」
隣のベッドでカイエンが身を起こしている。その向こうのマッシュが起き出す様子はないが、声を潜める。
「ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」
「いや、シイコ殿のせいではござらんよ」
カイエンは、優しげに目を細めて椎子を見ている。……しかし、寂然としているようにも見えるのは気のせいだろうか。椎子は気付かない振りをして応じた。
「私、こういうのは得意なんです。よかったら今度、カイエンさんのもやりますよ」
「それはありがたいでござるな」
「はい、もう任せちゃってください」
少しおどけて言うと、ようやくカイエンが笑った。そのことにほっとする。
若干の沈黙の後、カイエンが口を開いた。
「ミナ――妻も、よくそうしておった」
「あ……」
椎子はかける言葉を失くしてしまう。家族のことを思い出して……それで、あまり眠れないのだろうか。
カイエンは疲れたように目を閉じた。
「……すまぬ、変なことを申した」
「あ、あの――私、今、家に帰れなくなってて」
焦って、椎子は考えもまとまらぬうちに話し始めていた。脈絡のない言葉にカイエンが困惑したような視線を寄越したが、続ける。
「親にも友達にも会えないし、時々すごく寂しくなるし、何で帰れないんだろうって泣きたくなるし……」
何度もつっかえて、うまく話すことができない。だが、カイエンは、椎子が言葉を捜すのを辛抱強く待ってくれている。
「でも、カイエンさんもマッシュさんも、今はいないけどシャドウさんも、一緒にいてくれて、私を助けてくれて、すごく嬉しいです。私、ひとりだけど、独りじゃないんだなって。だから、カイエンさんにも――」
「…………」
「そう思って、欲しいなって……」
声は次第に小さくなっていった。自分でも何だか支離滅裂に感じる。何にしろ、もう少しうまく言えなかったものか。
「シイコ殿」
「は、はいっ?」
内心で頭を抱えているところに名を呼ばれ、椎子は動揺した。
カイエンは淡々と言う。
「明日の道は今までよりも厳しいでござる。もう休むがよろしかろう」
「あっ、そ、そうですね」
すぐに明かりを消して、ベッドに潜る。
余計なことを言ってしまっただろうか。どうにも自分は失言が多いようだ。猛烈に後悔していると、呟きのような言葉が聞こえた。
「……気遣い、感謝致す」
「あ、いえ、そんな――」
上掛けから頭を出して、椎子は何度か躊躇ってから
「な、仲間ですもんねっ」
そう告げた。
暗闇の向こうで、カイエンが少し笑ったような気配がした。