部長が部員をひとりずつ温泉に誘う
「うおお、すげえ! デッケー!! これ泳げるんじゃねぇの!?」「コラーッ! 鼓太郎ー! 温泉で泳ぐのはマナー違反だってばー!」
……この騒ぎっぷりも十分にマナーの範囲外なのだが、他に客の姿もないので、詩帆はあえて指摘せずに二人に続いた。とりあえず、鼓太郎が楽しそうでよかった。
「じゃあ次はプールにしよっか」
鼓太郎の水着だと、海の家の方が似合うかもしれない。はて、メビウスに海水浴場はあっただろうか。これだけの人間がいれば誰か一人くらいは願っていそうだし、そうでなくてもμに頼めば何とかなるだろう。
などと考えていたら、こちらを見ている鼓太郎がじりじりと後退りしている。詩帆は近付く。鼓太郎は退がる。
「どうしたの、鼓太郎」
「お前さ、それ以上こっち来んなよ……」
「なんで?」
「何でって……何ででもだよ!」
「温泉、嫌だった?」
「い、嫌じゃねぇよ。父さんたちと何回か行ったことあるけど、それっきりだったし……部長が誘ってくれたのは嬉しいよ。って、だから来んなって!」
「いいからいいから」
押し通して隣まで行ってしまうと、鼓太郎は一転して静かになった。
「今日は付き合ってくれてありがとね、鼓太郎。また来ようね」
「……おう」