部長が部員をひとりずつ温泉に誘う

「維弦って温泉とかあんまり好きそうじゃないよね。YOU、どうやって誘ったの?」
「一人で温泉に行く練習しようって誘った」
「お、おぉ……」
 アリアは目を丸くして、詩帆と維弦の顔を交互に見比べる。
「まぁ、取りつく島もなかった頃と比べると、これも進歩かなー。維弦、練習だからって簡単に知らない人について行ったりしちゃダメだかんね!」
「意味がわからない。なぜ僕がそんなことをすると思うんだ」
「やー、練習って言われたら何にでも付き合っちゃわないかなーって……今日だって簡単についてきちゃったんじゃん?」
「部長は……」
 友達だろう、と続けようとして、どうしてだか言葉が喉に引っかかって止まった。
「……知らない人間じゃない。それに、別に何でもやるわけじゃない」
「そうかなー。お一人様の練習なのに、アタシたちも一緒だしさ~」
「温泉だとWIREで連絡を取り合うわけにはいかないからな。長い時間あんたたちを外で待たせることになっても悪い。杞憂だったが」
 僕がここまで来るのに何の問題もなかった。そう誇らしく告げた維弦は、そこでようやく、詩帆がちょっと笑いながらこちらを見ていることに気付いた。
「…………もしかして、僕はまたからかわれたのか?」
「私が維弦と一緒に来たかったのは本当だよ」
 詩帆は巧妙なはぐらかし方をする。近頃になって対人スキルを培いはじめた彼は、こうなっては太刀打ちしようがない。
「僕も、あんたとはいろんな場所に行ってみたいと思う。……だから、これからは普通に誘ってくれないか」
 と、返すのがせいいっぱいだった。